図面を無くすことの難しさ
「図面レス」という大きな改革の方針が打ち出されたとき、設計業務にCADソフトを導入したり、情報共有を電子ファイルで行い紙を廃止したりすることが目標になりがちです。そしていざ“デジタル化”を達成しても、多くの場合、「図面のほうが便利だった」「図面の何が悪いか分からない」「デジタル化でむしろ効率が悪くなった」といった声が現場から寄せられてしまいます。
その理由は、「図面を無くすこと」自体が目的になってしまい、既存の道具をデジタルツールに置き換えること、いわば表面的なデジタル化だけが進められ、図面レスの本来の目的が見失われてしまっていることにあります。
図面レスに懐疑的な声が出るケースも多い。
図面レスは目的ではなく手段
図面レスの目的は、情報の一元化による長期的な視点でのプロセスの効率化です。
図面は紙で渡せば誰でも閲覧することができ、変更点やメモの書き込みがしやすく、スピーディーかつ正確に他者に情報を伝えるのに大変便利な媒体です。
その一方で、図面に変更が加わった瞬間に他のデータや情報との間で食い違いが発生してしまいます。また図面を補足するための帳票もその都度作り直しが必要になるなど、作業が煩雑になります。
整理された情報が残されないため、例えば同じものを作るときにも、前回と同じ煩雑な作業をもう一度行ったり、前回の失敗を生かせずに無駄な手戻りを繰り返してしまったりします。
これを解決するため手段が図面レスであり、3Dデータを正として情報を一元化する取り組みです。
図面は使いやすいが、変更履歴を管理しづらい。
3Dでの情報一元化を阻む要因
設計業務にすでに3D CADを導入している企業でも、図面レスの実現には越えなければならない障害がいくつもあります。
(例)
- 3Dは操作が難しく、使える人が限られる
- 情報量が多すぎて目視では必要な情報が見つけられない
- 手軽に変更やメモを入れられない
- 限られた予算の中では高価なCADのライセンスを増やせない
しかしそれらを解消できれば、3Dデータは誰でも直観的にかたちを認識できたり、帳票などの付帯的なファイルを作らずにそのまま情報を伝えられたりと、さまざまな利便性の向上を図ることができます。
以下が使用可能な記法と、文書のプレビュー結果のリストです。
自動化で図面レスをサポート
エリジオンは、製造プロセスのさまざまなシーンで日常的に3Dデータを活用できる環境づくりをサポートします。
これまで目視や手作業で行っていた業務の多くを自動化します。
CADモデルの不具合検出・修正
業界標準やベテランの知見をシステムに組み込み、設計品質をさまざまな角度から自動検証。人が行うような自然な修正も簡単な操作で行えます。
設変前後の CADモデルの比較
設計変更で「どこが変わったか分からない」を解決します。設計者自身でさえ気づかなかった意図しない変更点も、漏れなく検出しリスト化して表示します。
CADの属性情報・PMIの自動編集
ファイル名や属性情報を自社ルールに沿って自動編集して後工程に配信。普段は画面上では見ることのない属性情報も活用しながら、手間なく価値のあるデータを作り出します。
誰でも見られる、見やすいレポートを作成
HTMLやPDFなど、特別なアプリケーションがなくても閲覧できるレポートを、3D CADで作られた設計図をもとに出力します。
事例
金型改造プロセスにおける図面レス化
(自動車部品メーカー A社)
設計者の負担
A社では、設計部門に早くから3D CADソフトが導入されていましたが、設計変更に伴う金型の改造プロセスでは、情報伝達の手段として紙に出力した図面が使われていました。そのため、設計者は3D CADでの設計変更作業が終わった後にも、本来の仕事とは違う多くの作業を行う必要がありました。
具体的には、設計者はまず図面上の変更箇所に手書きで印を入れます。次に、加工するパーツの座標を抜き出した帳票を用意していました。さらに、連絡用の別のレターヘッドも作成して、ようやく後工程の担当者に連絡をすることができました。
図面を使った情報伝達の方法。設計者は、本来の仕事である設計以外の事務的な作業に時間をかけざるを得なかった。
古い図面を参照するミス
図面は誰でも見ることができ手軽に書き込めるため、非常に便利なツールです。しかし、後工程でも変更が次々と加えられていくため、全体の最新の情報を把握することは誰にもできなくなります。
A社でも、古い図面をもとに間違った改造をしてしまったり、最新の情報を探すのに時間がかかったりするといったムダが問題となっていました。そこでA社は、従来の図面の利点を認識しながらも、3Dデータを用いた新しい「データ正のプロセス」の構築に取り組みました。
図面への手書き指示、加工のための座標一覧表、連絡用文書を全て撤廃
現在、A社ではエリジオンの3DxSUITEを活用しながら、設計者が改造情報を一つの3Dデータに集約して後工程に伝えられるプロセスを確立しています。しかもこのとき設計者が行う作業は、わずか数クリックです。非常に少ない手間と短い時間で、正確に情報を伝達することが可能になりました。
人が図面を見て判断していた処理をシステム化することで、複雑な情報の伝達を正確にリアルタイムで行うことが可能になった。
お客様の声
“3Dでの設計後にやらなければならなかった付帯業務が簡略化され、本来の仕事に集中できる時間が増えました。3D CADソフトやPDMシステムだけでは図面を手放すほどの効率化はできないと思っていましたが、エリジオンのデータ変換を超えた「データ流通」の仕組みを使うことで、現在では図面レスを実現しています。たくさんの情報やファイルに関連性を持たせて、それがリアルタイムに更新されていける仕組みが整ったことで、ものづくりのデジタル化の一歩をようやく踏み出せたと思います” (A社 設計担当)
目指すべきは全体最適 ― データ流通の確立へ
「図面レス」は、一つ一つの業務をただデジタルツールに置き換える“個別最適”の取り組みではなく、プロセスの“全体最適”を実現するための手段です。これはすなわち「データ正」のプロセスを確立する取り組みと言えます。
データ正のプロセスとは、常にアップデートされていくデータがリアルタイムに関係者内で共有され、その情報を正として正しく迅速な判断の下に組織的に業務が進められることです。このように情報伝達がスムーズに行われることを、エリジオンでは「データ流通」と呼んでいます。
データ流通が確立されると、目先の業務が効率化される以上に、次に同じ製品や類似したものを製造する際に、同じ失敗を繰り返さず、一歩も二歩も進んだ状態からスタートすることができるというメリットが得られます。
技術とコンサルティングの両面でサポート
図面レスに取り組む際、誤った個別最適のデジタル化に取り組んだままでは、むしろPCで行う新たな人の作業を作り出し、本当のデジタル化から逆行してしまうこともあります。
エリジオンは3Dでのデータ流通の専門化として、現行プロセスを一つ一つ分解し、システムの仕様に落とし込むコンサルティングと、実際のシステム開発・実装の両軸から、業務プロセスの効率化をサポートします。