CADシステムを共通化したネイティブデータの授受
ものづくりを手掛ける企業の多くは、部品の供給を受けるサプライヤーと日常的に3Dデータのやりとりを行っています。このとき、CADのネイティブデータで情報の受け渡しが行われる場合と、CADデータをほかのフォーマットに変換することで連携する場合があります。
日本のものづくりの主要産業と言える自動車業界においては、以前はOEM(Original Equipment Manufacturer、自社ブランドの自動車を製造する大手企業)とサプライヤーの結びつきが強く、お互いが利用するシステムを阿吽の呼吸で共通化するケースが多くありました。使うシステムを同じものにすることで、ネイティブデータで情報をやりとりすることがしやすい環境が自然と整備されていきました。
しかし、ビジネス環境が複雑化した現在では各社の取引先は多様化し、特定の取引先だけを見据えてCADシステムを選ぶケースは珍しくなっています。
データをつなぐ二つの方法 ― ダイレクト変換と中間フォーマットを介した連携
企業間で異なるCADシステムを利用している場合、データ連携を実現する方法は主に二つあります。
一つ目は、送り手のCADのネイティブデータから受け手のCADのネイティブデータへダイレクトに変換する方法、もう一つは、ネイティブデータを中間フォーマットに変換して受け渡す方法です。
いずれの変換も、簡単に行えるものではありません。
実効性のあるデータ連携の仕組みを構築するには、データ形式ごとの内部構造を正しく把握し組み合わせごとに最適な変換を行える専用のトランスレーターが不可欠です。
中間フォーマット利用の潮流
最近では、CADシステムの種類に関係なくデータの受け渡しができる中間フォーマットを採用する動きが活発化しています。例えば、形状をSTEP、JT、Parasolidなどで定義し、構成情報をSTEP BOM、各種XMLで定義するといった方法です。
国内外の複数の標準化団体でも、CADの中間フォーマットについて近年盛んに議論が進められています。
ある大手自動車OEMは、ネイティブフォーマットとJT、STEP BOMを組み合わせた独自のデータパッケージの仕様を定義し、サプライチェーン全体への適用を進めています。
ネイティブフォーマットから中間フォーマットへの変換は、ネイティブフォーマット同士の変換よりはハードルが低いと思われるかもしれません。しかし、実際には中間フォーマットを介するがゆえの難しさもあります。
まず、CADのネイティブデータから中間フォーマットへの最初の変換で、形状情報に加えて属性やPMIなど多くの情報を正しく受け渡さなければなりません。かたちの情報だけでも複雑な数学的処理能力が必要ですが、属性情報までとなるとなおさら高度な変換技術が求められます。
いったん中間フォーマットに変換しても、データの受け渡しのためにはこれをまた別のCADのネイティブデータに変換しなければなりません。中間フォーマットに一度変換された形状、属性、PMIを、別のCADのネイティブデータに再度変換するには、最初の変換とはまた違った技術や工夫が必要です。
中間フォーマットを挟んだ二度の変換を高い精度で完遂させて初めて実効性のあるデータの受け渡しが可能になります。
さらにはフォーマットの違いだけではなく、部署や会社ごとの情報定義の仕方にも対応する必要があるため、実際のデータ変換はさらに複雑なものになります。
変換以外にも必要な3Dデータ処理
ものづくりの現場ではCADデータを変換して受け渡すだけではプロセスの効率化は進みません。
例えば、そのデータが正しく変換されたか調べるのに時間や人手をかけていては意味がありません。変換前後のデータを自動で比較し、担当者がデータの差分を手軽に確認できるようなレポート出力機能が必要になってきます。
また元のデータに不正な形状が含まれていたり誤った情報定義がされていたりすれば、後工程でどんなに効率化を図っても無駄な手戻りが発生します。これを防ぐには、データの不具合を自動検出し、設計者にわかりやすくフィードバックする機能が不可欠です。
ツールの活用による解決を
データ連携を阻む要因はさまざまです。細かな部分まで掘り下げてすべて把握し、企業自身で最適な解決策を見つけるのは非常に難しいものです。現実的な解決策として、実績のあるデータ変換システムの導入が必要であると言えます。ただし、そのシステムの標準機能だけでは、自社で長年培ったノウハウやガイドラインを反映できず物足りなさを感じることが多いのも事実です。そのため、システムの導入時には事前にシステムのカスタマイズ性をしっかりと確認しておくことも重要です。
データ連携で競争優位を保つ
サプライヤーなど他社とのデータ連携がうまく機能せず、誰も気づかない間に無駄なコストが発生していることがあります。グローバルな規模でのアライアンスも珍しくない現代にあって、企業の競争優位を保つためには、一般的に言われる人、物、金の流れと合わせて3Dデータを媒体とした情報の流れの効率化にも積極的に取り組む必要があります。