本稿はエリジオンがJEFメカニカル株式会社(現・JFEプラントエンジ株式会社)、株式会社エクサとともに機関誌『プラントエンジニア』(2016年2月号)に寄稿した記事を転載したものです。

なお、3社がInfiPointsを活用して取り組んだ新しいプラントメンテナンス手法の確立が高く評価され、InfiPointsは公益社団法人日本プラントメンテナンス協会が主催する2015年度TPM賞において「TPM優秀商品賞」を受賞しました。

はじめに

近年、3次元計測器の性能向上と低価格化が進む中で、計測した3次元点群データを用いてプラント設備の整備・改修作業を効率化したいとのニーズが高まっている。

例えば従来、プラントメンテナンスの現場では、作業員がスケッチした図面や写真だけで施工内容の検討が行われることが多く、そのため施工時の現場合わせを前提とした設計が主であり、場合によっては配管製作のやり直しなどの手戻りが発生していた。こうした問題は、3次元計測器で既存の配管を3Dモデル化し、施工前に詳細なシミュレーションを行うことで解決することができる。

ただし、大規模な構造物を3次元計測した膨大なデータを活用するには、まずデータを軽快に表示したり操作したりできることが大前提である。それにも関わらず、3次元計測器が普及しつつある中でもそれに対応するツールは依然として存在しなかった。さらには計測したデータの品質を上げるさまざまな処理や、点群データを自動でCAD化する機能など、ユーザの作業時間や負荷を軽減する技術も業務効率化を図るには不可欠であるが、こうした一連のデータ処理をワンストップで行うツールの開発には多様な分野の専門的な技術力が必要であり、市場のニーズに対応する製品はなかなか上市されなかった。

こうした中、InfiPointsは独自技術により3次元点群データを活用した施工の効率化を実現している。

InfiPointsの機能概要

1.大規模点群データの高速表示を実現

大規模構造物を対象とする3次元計測では、そもそも取得した大容量の点群データを表示することが難しく、従来は多大な工数をかけて点群から図面を書き起こしたり、3D CADモデルを作成したりして、設計・検討用ツールに受け渡す必要があった。これに対してInfiPointsは、点群データでできることは可能な限り点群データだけで完結することを製品コンセプトとしている。具体的には、数十億点以上の大規模・高密度な点群データを丸ごと取り込み、その中を自在に歩き回るようなシミュレーションを実現し、寸法計測などの機能を提供している。また、独自に開発したデータフォーマットとデータ処理技術により、コンピュータの物理メモリサイズによらず、無制限の点数の点群データを扱うことができる。

2.自動モデリングによる業務効率化をサポート

建築設備の入れ替えやプラントの改修などの現場では、前述の通り、現場でスケッチした図面や写真を用いて施工内容の検討が行われていることが多い。しかし作業時間の制約などから細部にわたる情報を十分に集めきれず、工事開始後に、配管接続部の位置が合わなかったり、配管の支持部材が他の構造物と衝突してしまったりするなどの問題が起きて作業のやり直しが必要になる場合がある。こうした状況を回避するため、既存の配管を3Dモデル化して施工シミュレーションが行われる。ただし、点群データを基に配管の3Dモデルを作成するには、多くの場合手動で1箇所ずつ形状を定義する必要があり、数百から数千本の配管をモデル化するような場合には膨大な時間と工数がかかる。

こうした課題を解決するため、InfiPointsは、後述の円柱自動抽出技術を用い、点群データから短時間で配管をモデル化する機能を備えている。通常のレーザー計測においては、壁や天井付近の配管は円周の1/3~1/2(120~180度)程度しか点群を取得できず、また他の構造物の死角となって部分的に途切れていることも多い。このような不完全な3次元データであってもInfiPointsは点群の分布特徴から円柱形状を自動認識し、配管要素(直管、エルボー、フランジ、ティー)のほとんどを自動でモデル化する。また自動抽出が困難な残りの部分についても、手動作成機能を用いて簡単に配管を追加作成できるため、短時間でモデルを完成させることができる。さらに必要に応じて規格部品の形状データに置き換えることも可能である。

なお、配管以外にも、点群から自動抽出した平面を用いて効率的に躯体や設備をモデリングする機能も搭載されている。

配管モデリングの例

3.多彩な自動処理を搭載

レーザースキャナーで取得した点群を活用するためには準備作業が必要である。InfiPointsに備わる高度なデータ準備機能を以下に紹介する。

3-1. ターゲットレス位置合わせ

レーザースキャナーによる計測結果を完成させるためには複数の測定位置でのスキャンデータをつなぎ合わせる必要がある。このため通常は球体または平面上に十字模様を描いたターゲットプレートなどの人工物をスキャン空間に配置して計測し、PC上の作業で写ったターゲットを手がかりにスキャンしたデータ間の相対位置を決めていく。

一方InfiPointsでは、後述の形状認識機能により点群中の平面部分を認識し、それらを仮想的なターゲットと見なして自動で位置合わせを実行する機能を搭載している。

製造業の工場を主な計測対象としているユーザからは、InfiPointsの位置合わせ機能を活用することで、現場にターゲットを持ち込む必要がなくなり計測業務が効率化できたことに加え、経験者以外でも業務を実施できるようになったとの声をいただいている。

二つのスキャンデータの位置合わせの例

3-2. 自動ノイズ除去

レーザースキャナーの計測データには種々のノイズが含まれており、そのままでは視認性が悪く業務効率を下げる原因となる。InfiPointsではノイズの発生原理に基づき、複数パターンの自動ノイズ除去機能を用意している。例えば、複数のスキャンデータが重なり合う場所では、測定点から近く高密度に測定できている点だけを残し、他の点をノイズとして検出できる。また、人や車などの移動体がスキャン範囲を通ると、影のような点群が残る場合があるが、InfiPointsでは結合済みの複数のスキャンデータを比較し、他のスキャンデータを遮るような点―一時的に写り込んだ「影」と思われる箇所―をノイズとして検出する。

この自動ノイズ除去機能を活用することで、従来手作業で1週間ほどかかっていた作業が1晩で完了したユーザ事例もあった。

自動ノイズ除去の例(重なり合った点を除去)

自動ノイズ除去の例(人影を除去)

3-3. 平面・円柱抽出

点群データは各点が座標値を持っているという意味では対象物の3次元形状を正確に反映しているが、稜線や面などの構造化された情報を持たないため3D CADデータに比べると扱いにくい面もある。

点群データだけで可能な限り多くの検討を実行できるよう、InfiPointsは点群データから平面・円柱を自動で認識し、それらを対象に寸法計測や3D CADデータの配置を行うことができる機能を備えている。またこの技術を応用することで、前述の配管モデリング機能を実現し、高精度なCADデータの自動作成を可能にしている。

円柱の自動抽出の例

4.3次元空間での比較・検討を実現

3次元計測したデータを適切に用いることで、現状把握やシミュレーションを効果的に行うことができる。以下にInfiPointsで実行できる比較・検討機能を紹介する。

4-1. 寸法計測

InfiPointsでは、平面や配管など自動で抽出した形状を距離計測の対象物として用いることができる。これらの平面・円柱は、一定の精度で周囲の点群を近似したものと考えることができ、例えば2平面間の距離は誰が操作しても同じ値が算出されるため正しい結果であると判断できる。さらに円柱を対象とした距離計測では、元々の点群の中には存在しない円柱の中心軸を対象として、中心軸間の距離を直接計測できる。

また、任意の断面で点群をスライスし、そこに2次元寸法を書き入れることもできるので、平面図や立面図と照らし合わせて現状を確認することも可能である。

点群から抽出した円柱間の距離計測の例

4-2. 干渉チェック

構造物の現状を表した点群データに、新規導入設備などの3D CADデータを重ねて読み込むことで、構造物の改造検討に用いることができるのも、点群データを用いることの大きなメリットである。InfiPointsには、取り込んだCADデータを自由に動かしながら、点群データとの干渉があれば即座に検知する「リアルタイム衝突判定」機能が搭載されており、CADデータのラフな配置を検討する際には特に効果的である。また、あらかじめ点群データ内で指定した軌跡に沿ってCADモデルを移動させ、周囲の点群との干渉をシミュレーションする機能も備えており、よりリアルな設備の搬入検討が可能である。

なおここでも、数十億点以上の大規模な点群であってもリアルタイムに計算結果が算出されるよう独自のデータ処理が実行される。

CADデータと点群データとの干渉チェックの例

軌跡に沿った干渉チェックの例

4-3. CADと点群の比較

InfiPointsでは3D CADデータと点群データの差異を検出し、カラーマップとして図示することも可能である。

設計情報(CAD)と完成した現物(点群)の差異は、出来形管理として利用できるほか、理想形状(CAD)と変状(点群)の差異を見てその結果を蓄積すれば、劣化や経時変化のモニタリングを行うことが可能である。

CADデータと点群データの比較の例

JFEメカニカルによるInfiPointsの活用事例

1.プラントエンジニアリングにおける点群活用の課題

JFEメカニカルは、大規模な鉄鋼構造物や配管の設計、製作などを行うプラント建設・製作と、設備管理、診断といったメンテナンスサービスを提供している。近年では、新規設備の開発や実際にメンテナンスを行う前工程として、現況を正確に把握するための測定サービスを提供する機会が増えている。

JFEメカニカルでの測定サービスにおいては、大型で複雑な構造物に触れることなく、安全に、かつ短時間で計測できる3Dレーザースキャナーを早くから導入しており、人の手で計測するのが困難な高所や危険な場所、人が測定すると多大な時間を要する場所、また精度にばらつきが出るようなケースでは特に有効な手法として認識されている。

ただし、3Dレーザースキャナーで大規模なプラントや建物を計測すると数十億点の点のデータで表された大容量の3次元データが出来上がる。このデータを従来のソフトウェアで処理すると、データを表示・加工するのに数時間、長い場合では日単位での時間が必要であった。

機械設備の業界においてもスピーディなサービス提供が求められる中にあって、データ処理の完了を待つだけの時間はクライアントに対して何ら価値を生み出さず、むしろ満足度を下げる要因になりかねない。

したがって、100mを超えるような大型の工場設備や総延長が何キロにも及ぶパイプラインなど、大規模な構造物を計測した大容量の3Dスキャンデータ(点群データ)を高速に処理ができ、ストレスなく表示するソフトウェアの導入が急務であった。

2.異なる建屋にまたがる配管の計測

例えば、大規模な製鉄所内の老朽化した建物の改築準備を行う際には、屋内のある箇所から隣接する建物の壁までの距離を知る必要がある。建屋をまたがる配管を新規に通す場合などがこれに当たる。こうした場合には、計測する箇所が壁でさえぎられるために物理的な採寸は難しい。

そこで3Dレーザースキャナーを用いて屋内・屋外の両方を測定しInfiPointsでデータを合成することで、屋内から壁をまたいで屋外建屋までの距離を画面上で測定することが可能となった。

建屋の内と外とのスキャンデータの合成

3.建屋の傾き計測

また、大きな地震の影響を受けた建物や老朽化した建物の傾きを検証する場合にもInfiPointsを活用した。

ただし、こうした建物は倒壊の危険があるため人が立ち入ることができないことが多く、3Dレーザースキャナーでの計測時にも基準球(注1)の設置ができない場合がある。InfiPointsでは、基準球がなくても自動的にデータ合成ができるため、これを活用することで、短時間での建物のデータ化が可能となった。作成したデータを用いてコンピュータ上で傾きを求め、さらに人工的に倒壊させる場合の方向をシミュレーションし、施工準備の効率化を図った。

(注1) 計測データを合成する際に参照するための球形の目印

データ化した傾いた建屋

4.JFEメカニカルでの活用効果

JFEメカニカルはInfiPointsを活用することによって、大規模な設備の点群データ処理にかかる時間を場合によっては半日から約30分に短縮させることに成功した。

データの処理時間の削減はコストダウンに直結する。またデータ処理のリードタイム短縮はクライアントへの3Dドキュメントの提示の早期化につながり、クライアントは3Dドキュメントをもとに直ちに設備工事の詳細な検証を開始させられるため、施工プロセス全体のリードタイム短縮が実現されることで、プラントエンジニアリング全体としての生産性向上につながっている。

まとめ

JFEメカニカルによるこうした先駆的な取り組みは、化学プラント、石油プラント、電力プラントなどのほか、建設、土木、製造業などあらゆる分野における点群データ活用へと広がりを見せている。

今後国内においては、高度成長期以降に建てられた多くの建屋が老朽化し、改修のニーズはますます増加することが予想される。そうした背景の中で、何らかの影響で倒壊する可能性のある建屋に対して非接触でさまざまな検証を行うことのできる施工プロセスの実用化は、人材不足が問題となりつつある現場の効率化のみならず、現場作業員の安全性確保の視点でも効果的である。

今回、TPM賞で点群データ活用ツールが評価されたことをきっかけとして、より多くの施工現場において3DレーザースキャナーやInfiPointsなどの点群データ活用ツールの普及が進み、プラントメンテナンスを進化させる新たな手法としてさらに発展することを期待している。