金型の設計・製造を手掛けるIBUKIは、取引先から受け取った3D CADデータの品質を検証し、データの修正・変換を行うためのツールとしてCADdoctor(現・3DxSUITE)を導入しました。

導入した直後から、CADデータの修正にかかる設計者の工数は大幅に低減しており、現在では、CADdoctorはIBUKIにとって、効率的な金型設計になくてはならないツールとなっています。

背景と課題―CADモデルの不具合対応

IBUKIは、創業80年を超える金型設計・製造会社です。細かい模様を大型の金型に施す「加飾」と呼ばれる独自技術を強みとして、全国の製造業者から信頼を集めています。

2015年からは「金型業界の風雲児」を会社理念として掲げ、さまざまな新しい取り組みに挑戦しています。その中の一つが、設計業務の効率化です。

IBUKIは、金型設計業務にCADソフトウェアCADmeisterを利用しています。取引先から受け取る製品の3D CADデータは、主にIGES・STEP・Parasolidで、従来は、これらのデータをCADmeisterに取り込む際にデータの不具合が頻繁に発生していました。

例えば、モデルの拡大・収縮・変形ができないなど基本的なデータの不具合のほか、表面形状の曲面と曲線の離れ(モデルの表面形状のベースとなる曲面と、形状の輪郭となる曲線との間に隙間が開くこと)や面抜けなど、CADの形状に関する問題が多数生じていました。

IBUKIはこれに対し、金型設計者がCADmeisterの画面上で一つずつ不具合箇所を見つけ、意匠を変えないよう手作業でのデータ修正を行っていました。しかしこの方法では、不具合の特定だけでも膨大な手間と時間がかかり、金型の生産リードタイムにも影響が出ていました。

従来のCADデータ不具合への対応フロー

CADdoctorによるデータ修正と変換

そこでIBUKIは、CADデータの不具合修正作業の省力化と、自社で取り扱う3Dデータの品質向上による生産プロセス全体の効率化を目的として、エリジオンのCADdoctorを導入しました。

IBUKIの設計者は、まず取引先から支給された3Dデータの品質をCADdoctorで検証します。このとき、CADdoctorは後工程で使用するCADmeisterに最適な検証項目を自動で設定するため、面倒な項目設定作業を行うことなくデータをチェックすることができます。

CADdoctorの操作画面。出力フォーマットを選択すると
最適な検証項目が自動設定される

検出された不具合箇所に対しては、CADdoctorの自動修正機能を利用することで、手間を掛けることなく最適なデータ処理を実行することができます。CADdoctorでは、CADモデルの意匠が変わるような大きな修正をあえて行っておらず、残された不具合箇所は設計者自らが確認した上で、CADdoctorの対話(手動)修正機能を用いて手早く編集し、最後にCADmeisterデータファイルとして出力します。

CADdoctorを用いたCADデータ変換のフロー

CADdoctorによるデータ変換の実例。
元データをそのままCADmeisterで開いた場合面抜けが発生している(左)が、
CADdoctorで変換した後のデータを開いた場合にはソリッド化されている(右)

CADdoctorの導入によって、IBUKIの金型設計者による不具合修正の手間は大幅に低減しました。実際、導入してから1カ月後には、データ修正にかかる時間が、従来に比べ5分の1に短縮されました。

データ品質向上による副次的な効果

CADdoctorを導入しCADデータの修正作業を効率化したことで、IBUKIの設計者は、より高い付加価値を生み出すための設計構想などに注力できるようになりました。

また、受け取るデータの品質に左右されていたデータ修正時間がある程度均一化されたため、事前の開発工数の見積もりがしやすくなり、精度の高い開発計画を立てられるようになりました。

IBUKIは、今後設計業務におけるCADdoctorの利用範囲を拡大し、CADdoctorの形状簡略化機能を活用するなどして、「金型業界の風雲児」にふさわしい新たな金型製造プロセスの構築を目指す考えです。