F1レースの世界では、マシンがスタートラインに並ぶ前から戦いはすでに始まっていると言われています。
「私たちの勝負は、観客が一人もいない静かな工場ですでに始まっています。それはまさにレースと言えるもので、いかに時間との戦いを制するかが勝敗を左右します。極限の開発競争のなかで、私たちは数週間、ときには数日間という短い期間でパーツを設計・製造しなければなりません」(アルピーヌF1チーム テクニカルパートナー統括責任者 Ian Goddard氏)
パーツの開発は、車体や機材がすべて工場から運び出された後もさらに続きます。レース場に向けて出発する最後のスタッフが予定外のスーツケースをいくつも抱え、出来上がったばかりの部品を何とか運びこんでレースに間に合わせるといった対応が当たり前のように行われます。
このような短いサイクルでの開発プロセスを維持し続けるには、開発から製造までがシームレスにつながったプロセスの構築が不可欠です。
「プロセスを効率化しリードタイムを短縮できれば、エンジニアはより革新的な取り組みに時間を充てることができます。それによってチームの競争力をさらに高めることができるのです」(同CAD/PDMマネージャー Mick Bennett氏)
こうしたアルピーヌF1チームの挑戦をサポートするため、卓越した技術を持つごく限られた企業が、公式テクニカルパートナーとなって自らの先進技術をチームに提供しています。
アルピーヌF1チームが選んだ3Dデータ変換技術
開発サイクルを極限まで短縮しなければならないエンジニアリングの世界では、異なるCADソフトウェア間やCAD・CAEツール間でのデータ授受にもスピードと正確さが求められます。多くの場合、CADソフトウェアの変換機能を利用したり、一度中間ファイル形式に変換したりすることで後工程とのデータの受け渡しを行いますが、その際、モデル上の面抜けなどさまざまな不具合が生じることがあります。アルピーヌF1チームでも、この不具合の修正のためにエンジニアが数週間という長い時間を費やすことが少なくありませんでした。こうした非生産的な作業は車体の開発リードタイム全体に悪影響を与えます。
この問題を解決するため、アルピーヌF1チームがパートナーとして選んだのがエリジオンでした。
エリジオンは創立当初から、スピーディーで高品質なデータ変換技術の開発に取り組んでおり、現在世界中の企業に独自のソリューションを提供しています。公式テクニカルパートナーとなって以来、年に2回ほどElysium Europeエンジニアが英国エンストンのアルピーヌF1チームの開発拠点を訪れ、エリジオンの最新技術の紹介や既存の変換ツールに対する要望のヒアリングなどを行っています。こうした活動を通じて、エリジオンはアルピーヌF1チームが高度な変換技術を常に最大限活用できるよう手厚いサポートを続けています。
エリジオンをはじめとしたテクニカルパートナーによる技術提供と支援は、アルピーヌF1チームの開発競争力の維持・向上に貢献しています。
パートナーシップの始まり
エリジオンがアルピーヌF1チームのテクニカルパートナーに認定されたのは、ルノーがベネトンからF1チームを買収した直後の2002年のことでした。当時、ルノーF1チームでは使用するCADソフトウェアをCATIAに変更することを決めており、過去の膨大なCADデータをすべて変換しなければなりませんでした。
ある時、マシンの変速機のCADモデルを変換する作業でエンジニアの膨大な工数が費やされていた際、技術パートナーの一つから紹介されたのがエリジオンでした。問い合わせを受けたエリジオンが自社のツールで同じモデルのデータ変換を行ったところ、わずか数時間で処理が完了し、そこから両者のパートナーシップがスタートしました。
現在、アルピーヌF1チームではデザインから製造までの一連の開発プロセスでCATIA V5をメインのCADソフトウェアとして使用しています。またそれを補うツールとして、エリジオンのCADdoctorを採用しています。
CADdoctorは名前の通り、変換プロセスで起きる不具合を検出し修正します。設計データの品質を高め、後工程で利用されるのに最適なデータ形式に簡単に変換できるのが特長です。
例えば、メーカーが車体周辺気流の解析を行う際、外部パートナー用に設計データをIGES・STEP・Parasolidなどの中間ファイル形式に変換することがあり、そのデータ変換のツールとしてCADdoctorが活用されています。またデータを受け取る解析担当者がモデル形状の確認や編集を行う際にも利用されています。
「流体解析では非常に複雑で高度な表面形状を扱わなければなりません。だからこそCADデータの品質を高く維持することのできるCADdoctorは私たちにとって非常に価値のあるツールです」
– Mick Bennett氏
解析担当者は目的に応じてAbaqus・Patran・Nastran・AltairなどさまざまなCAEツールを使い分けます。そのため設計データはCADソフトウェアと解析ソフトウェアの間をシームレスに行き来させる必要があります。
「解析ツールは担当者のそれまでの経験や特定のケースに応じてその都度使い分けられます。現在、線形分析・非線形分析・合成解析・金属解析など、さまざまな用途で複数のアプリケーションを導入していますが、CADdoctorを活用することで無用なトラブルを起こすことなくデータを各ツールに読み込ませ、効率的に解析作業を進めることができます」(Mick Bennett氏)
また、形状の簡略化やフィーチャーの削除といったこれまでエンジニアにとって負担の大きかったCADデータ処理のプロセスにおいてもCADdoctorが活用されています。CADdoctorでこれらの作業を半自動化することで複雑なアセンブリーデータでも手早くCAEソフトウェアに読み込ませることができ、高品質なデータはCAEソフトウェアでの効率的なメッシュ作成や解析にも寄与しています。
さらに、同じCADソフトウェアの新旧のバージョン間でのデータ変換にもCADdoctorが使われています。例えば、半径や接線などは、多くの場合古いバージョンに変換したときに不具合が発生します。CADdoctorであればこれらもすべて正しく変換することできます。
「最近では、ASFALISをベースにしたデータ変換のシステムをエリジオンとともに開発しています。CAMの担当者が簡単にCADデータを変換でき、新規の工作機械の制御プログラムを作る際にそのデータを有効活用できる仕組みを目指しています」(Mick Bennett氏)
より信頼できるサプライヤーを選ぶために
アルピーヌF1チームは部品の多くを内製しています。しかし外注が必要な場合には、最適なサプライヤーを選ぶために候補となる企業をできるだけ多く抱えている必要があります。シンプルで信頼性の高いデータ変換ツールがあれば、使用しているCADソフトウェアなどで候補を絞り込む必要がないため、選択肢を広げられます。
こうしたニーズは決してアルピーヌF1チームだけが持つものではありません。競合に対抗し短期間で製品開発しなければならないにもかかわらず、CADデータの変換時にモデルの修正で多大なリソースを割いている企業であれば、規模の大小によらず高度な変換技術を求めています。
また、使用するCADソフトウェアの変更やバージョンアップを行う企業が増加しており、データ移行に伴う変換技術の需要は拡大しています。変換したデータを元に後に設計変更を効率的に行うためには、設計履歴などCADデータ持つ情報をすべて正確に変換する必要があります。また手作業でのデータ修正の手間を削減するためにも、高精度なデータ変換は不可欠な技術となっています。
イノベーション創出をサポートするエリジオンの技術
「コンマ数秒単位でパフォーマンス改善が求められる私たちの業界にあって、CADdoctorは劇的に開発期間の短縮とデータ品質改善を実現してくれました。これは本当に価値ある業績です。エンジニアは従来の余計な作業から解放され、以前よりも開発検討の回数を増やすことができ、レース場により多くの変革をもたらすことができるようになりました」(Mick Bennett氏)
アルピーヌF1チームは15年以上にわたってエリジオンの技術力を認め続けています。