CAD-ポリゴン-点群 ― 3Dデータの種類
製造業の世界で「3D」と言えば、「CAD」データを真っ先に連想する方が多いかもしれません。しかし、CADデータだけが3Dデータではありません。
CADは基本的に物の形を面で表現します。それとは別に、小さな三角形を代表とする多角形が連なるメッシュの集合体で立体を表現したのが「ポリゴン」です。またx, y, zの座標を持つ無数の点が集まって形状を表現するのが「点群」です。
その中で今回は「点群」データに着目します。
点群データ利用の例 ― 建築・土木・文化財分野では大きな構造物を3D計測し点群データを利用する動きが広がっている
点群データの特長
3Dデータの中でも点群データを活用するメリットとして、物をデジタル化しやすい点が第一に挙げられます。
リアルな物を3Dレーザースキャナーで測定することで、手軽に点群データとしてデジタル化することができます。スキャナーやそれを処理するソフトウェアによっては、測定中にリアルタイムで点群データを取得し表示することも可能です。
CADやポリゴンデータは一般的にCADソフトウェアやCGツールを使って、人が一からモデリング作業をしなければなりません。複雑な形状を持つ物や大型の構造物を対象にした場合、モデル作成には膨大な工数が必要になります。
再現性の観点からも物をデジタル化するのは簡単ではありません。CADやCGの制作では現場の細部まで確認しきれないために、最後は「だいたいこんな感じ」と、制作者の判断でリアルとは違う形にモデリングされることも少なくありません。
その点、3D計測と点群データからは、うそのない高精度の3D情報が得られます。
点群データの活用シーンの広がり
①製品・部品のデジタル化 ― 高精度な3D計測
ものづくりの現場では早くから点群データの活用が進められてきました。
代表的な活用例は、自動車や電機精密機器部品の解析のために行われる3Dスキャンです。実物から設計データや金型データを作成する際にも3D計測が行われます。さらには、出来上がった物が当初の設計通りになっているか確認するための検査や競合調査でも3D計測した実物の点群データが利用されることがあります。
ハンディースキャナーの計測例
出所: Creaform Youtubeチャンネル
点群データがそのまま使われることもあれば、点群からポリゴン、さらにCADへのデータ変換作業が行われることもあります。これを3Dデータ処理の業界ではリバースエンジニアリングと呼びます。
リバースエンジニアリングの例 ― 点群から生成したポリゴン(左)とさらにそこから自動生成したCADモデル(右)
リバースエンジニアリングを行う場合、レーザーを当てられず部分的に点が生成されていなかったり点にばらつきがあったりする状態の点群から、いかに高精度なCADデータを生成できるかが課題になります。そもそも点がきれいに並んでいたとしてもそれぞれの点の情報(座標)から面の情報(つながり)を持たせるのは簡単な処理ではありません。
エリジオンも3DxSUITEの機能の一つとしてリバースエンジニアリングオプションを提供しています。まず点群データの平滑化や異常値除去を行ったうえでポリゴンを作成し、そのポリゴンをもとに段差やフィレットといった特徴形状を認識します。そして自動でCADデータを生成します。
②リアルタイムデータ取得
精度とあわせてスピードが求められる場面でも点群データが使われています。
3Dレーザースキャナー(LiDAR)は、自動車の自動運転の開発が進むとともに一般のニュース等でも取り上げられる機会が増えました。自動運転の技術開発では、計測したデータをリアルタイムで処理し瞬時に危機の回避や運転支援につなげる必要があります。
自動車業界に限らず、リアルタイムで点群を扱う技術は土木や建築の業界でも注目されおり、工事の日々の進捗確認などへの適用が検討されています。
3Dスキャナーのリアルタイム計測の例
出所: Velodyne Lidar Youtubeチャンネル
エリジオンでも大規模点群データ処理ツールInfiPointsを利用されているお客様とともに、近年LiDARで計測した点群データのリアルタイム表示やリアルタイムの差分検出、障害物検出などの研究を進めています。
③大規模な建物・構造物のデジタル化
工場のレイアウトや設備変更の計画、施工図作成、避難経路や作業動線の確認といった目的で、建物や大きな構造物を3D計測するケースが増えています。
国のi-Constructionの掛け声や現場の人手不足、高度成長期の建物の多くが一気にメンテナンスが必要な時期を迎えていることがその背景にあります。
メンテナンスを計画する際、現場の図面がなかったり、保存されていてもそれが部分的であったり、設備の改修結果や細かな機器・コードが図面に反映されていなかったりすることは日常茶飯事です。そのため、今の現場の状況を手早く正確に確認できる3D計測への注目が集まっています。対象も製造業の工場、商業ビル、プラント、橋梁、インフラ施設、道路などあらゆる方面へ広がっています。
InfiPointsで点群から配管を抽出した例 ― InfiPointsは大規模な点群データをスムーズに扱え、点群データから配管などの円柱や壁などの平面を自動で抽出してCADモデル化する機能を備えている
④より広い空間の把握
山林や住宅地の地形、化学や鉄鋼などの大型プラント、原料ヤードを計測し、点群データを災害シミュレーションに役立てたり、効率的なメンテナンス工事に利用したりする取り組みも行われています。
計測範囲が広いため、ドローンやMMS(Mobile Mapping System: モービルマッピングシステム)が使われることが多いのがこの分野の特徴です。
東京の首都高速道路のメンテナンスには、全線を対象とした3D計測と点群データの活用がいち早く取り入れられています。エリジオンは朝日航洋株式会社とともに、首都高技術株式会社が活用する情報管理システムInfraDoctorの開発プロジェクトに参画しています。
道路のような大規模な範囲を計測した点群データは必然的にファイルサイズが非常に大きくなります。関係者とデータを共有するのに高スペックなPCを多くそろえるのは現実的に難しいため、現在は点群データをクラウド上で管理し、関係者がインターネット経由で簡単に閲覧できるサービスも生まれています。
InfiPointsのクラウドサービス ― InfiPointsで編集した点群データをクラウドにアップロードできる。関係者はWebブラウザーで点群データの閲覧が可能に
⑤時間をかけず誰も見たことのないコンテンツを作る
点群データはエンターテインメント業界や博物館などコンテンツの展示を行う業界でも活用が広がっています。
従来3Dコンテンツを作るためには、CADやCGの専用ソフトウェアをマスターしたプロが何日もかけなければなりませんでした。しかし、点群データをベースにすることで作業効率を大幅に上げることができます。
CGできれいな映像を見せる代わりに、点群データをそのまま魅力的に見せる方法も登場しています。その一つが、空間再現ディスプレイと点群データの組み合わせです。空間再現ディスプレイは、VRデバイスと違って手軽に立体視を体験することができ、エンジニアの事前の現場確認や文化財の博物館での展示などへの活用が期待されています。
なおエリジオンはInfiPointsで処理した点群データを空間再現ディスプレイに直接投影できる機能を現在開発中です。2023年夏の正式リリースを目指しています。
空間再現ディスプレイへの点群表示のイメージ
映画やゲームなどエンターテインメントの業界でも、従来のように街全体を一からCGで制作するのではなくリアルな世界を計測した点群データをベースに短時間でコンテンツを作る新しい手法が広がりつつあります。
選ぶべき3Dレーザースキャナーとは
活用シーンが広がる点群データですが、点群データを取得するための計測機器は、測定対象や目的によってさまざまな種類の中から適したものを選ぶ必要があります。
例えば、スキャナーは固定して高い精度で計測するか人や乗り物で移動させながらスピーディーに計測するか、対象の大きさはどの程度か、範囲は狭いか広いか、密度は細かいか荒くてよいか、精度は高いか低くてよいか、白黒か色付きか―。さらに計測作業にどの程度の人手や時間、費用をかけられるかといったリソースの視点も計測機選びのポイントになります。
リアルとデジタルをつなぐ点群
昨今ものづくりの業界では「デジタルツイン」という言葉が使われています。概念として理解できても、実際の仕事に反映させようとすれば簡単にはいきません。
その点、点群データはリアルの世界とデジタルの世界を手軽に結び付ける力を持っています。デジタルツインを実現するための一つの鍵になるかもしれません。
点群データをまだ見たことがない、触ったことがないという方も多いのではないでしょうか。
エリジオンは大規模点群データのサンプルを、インストール不要のビューアー付ファイルとして提供しています。ぜひ一度お試しください。