本稿はエリジオンが雑誌『ツールエンジニア』(2014年6月号)に寄稿したCADdoctor(現・3DxSUITE)に関する記事を一部編集して転載したものです。

設計・製造プロセスの効率化のためには、上流工程から下流工程まで一気通貫で3次元データを活用することが不可欠となっている。そうした中で、現在主要なものだけでも約10種類のCADソフトが普及し、さらに3次元データに関するファイル形式も多数存在しており企業にとっては効率的なデータ活用が難しい要因の一つとなっている。

当社は、種類の異なるCADデータを最適化することで3次元データに関わるさまざまな課題を解決するソリューションを提供している。本稿では当社が提供するパッケージ製品「CADdoctor」の概要を解説する。

CADdoctorの基本機能―データ変換(検証・自動修正)

製造プロセスの上流から下流まで社内外を問わずいかに適切なデータのやり取りを行うことができるかが、ものづくりにおける業務の効率化に欠かせない要件となっている。一方で、現実には各社もしくは同一企業内であっても部署ごとに異なるCADソフトを採用していることも多く、作成したデータを単純に受け渡すだけでは不具合が発生することもしばしばである。こうした場合、データの品質を素早く検証し適切に修正することが求められる。

データ検証・修正・変換が必要な理由

そもそもなぜデータ検証や修正が必要となるのか。その理由として大きくは四つ挙げられる。一つ目は、CADソフトやシステムごとに曲線や曲面の数学的表現方法が異なることである。二つ目は、CADごとに要素のつながり具合を表現する位相情報が異なることである。このような表現方法や仕様の差により、異なるソフトやシステム間のデータの互換性が乏しくなる。三つ目の理由としては、CADソフトごとに設定されている許容誤差の値が異なることが挙げられる。例えば、あるソフトではエッジの離れが0.1mm以内であればその二つのエッジの端点は一致していると認識するが、別のソフトでは許容誤差の値がさらに小さいためにエッジは離れたものとして処理されるといった現象が生じる。四つ目に、データを作成する過程において、オペレーター自身も気付きにくい人為的なミスが発生することが挙げられる。微小な段差や重複面などがこれに当たる。

最適な検証項目の抽出と自動検証―アイコンを押すだけの簡単操作

こうしたデータの不具合を検知・自動修正し、適切なかたちで書き出す一連の処理を行うことこそCADdoctorの基本機能である。

その特長は、まずあらゆるCADソフト・ファイル形式に対応していることである。また、データ検証時に出力先のCADの種類を設定すれば、自動的に最適な検証項目がセットされる。一連の作業工程についてはオペレーターがアイコンを押すだけのシンプルな操作性を実現している。

手順としては、まず検証するデータをCADdoctorにインポートする。IGES・STEPといった汎用フォーマットのデータに加え、各CADソフトに対応する専用フォーマットのデータを扱うことも可能である。

次に、変換先のCADの種類をプルダウンメニューから選択すると、画面の左カラムにはそれに適した検証項目が表示される。そして左カラム中段の「検証」アイコンを押すだけで自動検証機能が実行され、項目ごとに不具合の数が示されるほか、CADモデルに該当箇所が色付きで表示される。それぞれの箇所は「ズーム」アイコンで一つひとつ拡大して確認することができる。

不具合の自動修正―面のなめらかさを保つ高精度の修正技術

これらの不具合は、左カラム中段の「自動修正」アイコンから一括で修正することができる。その際には不具合のある箇所の周辺フェースやエッジの位置情報などをもとに、自動で緻密な形状処理が施される。

なお、自動修正のための各種パラメーターは任意で設定することができるため、用途に応じた柔軟な処理を実行することが可能である。例えば、製品の成形時に重要となる「面のなめらかさ」を優先したい場合には、離れたフェースの連続性を保持して修正がなされるような設定を行うことができる。また、修正を施す対象面を限定することも可能で、例えば、デザインとして重要な意匠面を一切変更しないよう指定することができる。

さらに、理論的に自動修正が不可能な箇所がある場合には該当箇所を目視確認しながら最適な修正方法を選んで手動で修正作業を行うことができる。不具合の内容によって適切な修正アイコンが自動表示されるため、初めてCADdoctorを扱う場合であっても効率的に作業を進めることが可能である。

このように、CADdoctorは複雑なデータの検証・修正を自動で、高精度に行うと同時に、設計者やオペレーターの意図や判断を適切に反映させられるという柔軟性も有している。

CADdoctorデータ変換機能の操作画面

エラー箇所の検出から手動修正までの流れ

CADdoctor導入事例 1. データ検証・修正による効果

CADdoctorの応用機能―データ最適化

データの検証・自動修正・変換という基本機能に加え、CADdoctorは後工程のためのさまざまなデータ最適化機能を備えている。ここでは、形状簡略化・リバースエンジニアリング・形状比較の三つを紹介する。

形状簡略化

緻密に設計されたCADデータは高品質な製品・部品の製造には欠かせない。ただし、データを用いたシミュレーションを行う際にはその複雑な形状ゆえに解析に膨大な時間を要する場合も多い。そうした場合には、シミュレーションに影響を与えない形状(フィーチャー)を削除し、シンプルな形状に修正することでデータ自体の容量が軽減されたり、解析にかかる負荷が低減されたりする。

また、金型を設計する際、テーパーをつけるために一度CADデータから一部のフィレットを除去し、その後再度フィレットを作成するといった工程を踏むことがあり、そうした煩雑な作業が必要な場合にもCADdoctorの形状簡略化機能は有効性を発揮する。

CADdoctorの形状簡略化機能の特長は、CADデータに履歴がない場合でも形状からフィーチャーを認識し削除することができる点である。履歴が残されている場合には、CADソフト上で履歴を参照しながら編集することでフィーチャーを一つひとつ取り除き形状を簡略化していくことができるが、履歴が残ったデータには設計ノウハウが含まれることが多いため実際にはそれが後工程に渡ることはほとんどない。

CADdoctorでの形状簡略化は、データ検証機能と同じく自動で行われる。オペレーターはまず認識したいフィーチャーの種類を左カラムの一覧から選択し、任意のしきい値を入力する。次に左カラム中段の「自動認識」アイコンを押すことで設定したしきい値に適合するフィーチャーが抽出される。その後、同じく「一括消去」アイコンを選択すれば認識されたフィーチャーが削除されると同時に、周囲の形状をもとにした最適な修正処理が施され、自然なかたちで簡略化がなされる。単純な形状だけではなく、例えば複数のフィレットが重なり合うような複雑なものでもフィレットとぼかし面を適切に判別し周囲との整合性を保った簡略化が実行される。

形状簡略化機能によるフィレットや穴の削除

CADdoctor導入事例 2. 形状簡略化による効果

リバースエンジニアリング

CADデータの最適化に加え、CADdoctorは点群・ポリゴン・CAD間のデータ変換機能も有している。この機能が注目されるのは主にユーザーがリバースエンジニアリングを実施する場合である。

近年、リバースエンジニアリングは製品や金型の設計目的だけでなく、量産前の試作品や経年劣化した製品の強度を解析する目的で検討されることが増えている。

CADdoctorのリバースエンジニアリング機能では、3次元測定機で得られたポリゴンデータをもとにCADデータを作成することができる。肝となるのがポリゴンデータ上におけるフィレット認識の精度の高さである。ポリゴンデータのフィレット部分とベース曲面部分をポリゴンの曲率から自動認識し、それをもとにポリゴンの領域分割を行うことでCADソフトでモデリングした時と同等の自然な面構成を実現することができる。

このような精度の高いフィレット認識をベースとするため、自然で高品質なCADデータの作成が可能となる。

ポリゴンからのフィレット自動認識

CADdoctor導入事例 3. リバースエンジニアリング機能による効果

形状比較

CADdoctorの基本機能はデータの変換がメインであることはこれまで紹介したとおりである。こうした機能に加え、当社の形状自動認識技術を応用したのが「形状比較」機能である。

製造プロセスにおいて、いかに設計変更を素早く丁寧に後工程に伝達するか、また後工程からすればいかに設計変更の情報を迅速かつ正確に把握するかは恒常的な課題と言える。この問題に対するソリューションの一つがCADdoctorの形状比較機能である。

まず、変更前の元データと変更後のCADデータをCADdoctorに読み込む。その後、左カラムの「形状比較実行」アイコンを押すことで、フェースやエッジの形状、位置の差異が色分けされて表示される。また、フィレットのR値や穴の半径など数値化できる差異についてはその値が表示されるため、正確に変更内容を把握することができる。

こうして得られた情報は、速やかに関係者と共有する必要があるが、CADdoctorではそれをWebブラウザなどで閲覧することができるXML形式のレポートとして出力することができ、CADdoctorを所有していない部署や他社の関係者との円滑なコミュニケーションに生かすことが可能である。

形状比較結果の表示

CADdoctor製品構成

これまで紹介したとおり、CADdoctorはデータの検証・自動修正・変換を軸としながらデータの最適化やリバースエンジニアリングなどさまざまな機能を有している。これらの機能は標準機能とオプション製品に分かれており、また各CADへのデータ入出力アダプターもそれぞれオプション製品となっている。そのため要件や既存のITインフラに合わせ、ユーザーごとに最適な機能の組み合わせを選択し導入することができる。

CADdoctorの強みは3次元データのさまざまな変換・最適化を包括する多様な機能を有していること、またそれらの処理を自動で、高速に、高精度で行い、さらにオペレーターに対してシンプルで直観的に扱うことのできる操作性を提供しているところにある。

なお、当社ではCADdoctorのトライアル版を用意し本格導入前に事前に既存システム等との整合性を確認できるサービスを提供している。実際の製品データ等を用いてCADdoctorの有用性を実感していただきたい。