本稿はエリジオンが雑誌『ツールエンジニア』(2016年11月号)に寄稿したDFM Studio(現・3DxSUITE Plug-in for DFM)に関する記事を一部編集して転載したものです。

はじめに―DFM(Design for Manufacturability)の重要性

近年、ものづくりの現場では2D図面ではなく3D CADによる設計が主流となっている。ただ同時に、開発体制のグローバル化に伴う設計機能の海外移転やベテラン技術者のリタイヤなどにより、企業にとって3D CADモデルの設計品質の維持は難しくなっている。低品質のCADモデルは後工程で手戻りを引き起こす原因となり、効率的な生産プロセス構築の足かせとなる。

こうした背景から、現在、製品開発の初期段階から製造可能性等を考慮し高品質な設計を実現する手法「DFM(Design for Manufacturability)」に注目が集まっている。

DFMを実現するためには、製品設計者が製造要件をすべて把握し、製造工程で不具合を発生させないモデルを最初から設計できるのが理想である。しかし現実には、設計者が自身の専門外である製造技術を深く理解し製造に必要な要件を漏れなくCADモデルに反映させるのは困難である。また多くの場合、設計者は製造部門にデータを渡す前に社内のガイドラインをもとに自ら設計品質の向上を図っているが、目視によるチェックでは抜け漏れが発生する。したがって設計者による検証は、後工程での不具合防止策としては不完全なものとなっている。特にベテラン技術者のノウハウが社内で伝承されていない企業や組織では、モデルの事前検証のレベルが低下しこうした問題が生じやすい。

設計品質検証ソフト「DFM Studio」の概要と導入効果

当社は2016年10月に、DFMの実現をサポートするソフトウェア「DFM Studio(現・3DxSUITE Plug-in for DFM)」を発売した。本製品は、設計者が3D CADソフトウェアで作成したモデルの品質をあらかじめ定められた設計ルールに照らし合わせて自動検証することにより、後工程で起こりうる潜在的な問題を発見するためのツールである。

従来設計者が個々に行っていた検証作業をシステム化することで、以下のような効果を得ることができる。

1.設計・検証ノウハウの標準化

個々の設計者の知識に依存せず高度な検証を実行することができる。経験豊富でスキルの高い設計者のみが有していたノウハウ(暗黙知)をシステム(形式知)化することで、組織として安定的に高品質な設計データを作成することが可能となる。特に近年はベテラン技術者のリタイヤにより、厳格な検図を行える人材の不足が問題となっているが、そうした状況でもソフトウェアが設計品質を担保し、組織として設計データの品質を維持することができる。

2.自動化による省力化と品質向上

通常モデルの検証作業は設計者の目視によって行われており、多大な手間と時間を要している。これを自動化することで設計者の負担が大幅に軽減される。また目視では見落とされやすい問題箇所もソフトウェアによって徹底的に抽出されるため、モデル品質の向上が実現される。

なおDFM Studioでは、データ検証後に不具合箇所が画面に一覧表示される。そのため設計者はリストを見ながら不具合を効率的かつ網羅的に編集することができ、短いリードタイムでデータ検証から修正までを完遂できる。

3.検証プロセスの低コスト化

設計データの品質を最終的に確認する方法として、現在は主にCADモデルを元にしたCAE(Computer Aided Engineering)や試作が行われている。しかしCAEを行うには解析者としての専門的な知識が必要な上、結果を得るまでに長い時間を要する。また試作においては、材料や加工のための高いコストが伴うのが一般的である。DFM Studioを用いて設計データを検証することで、これらの手間やコストを大幅に抑えることが可能となる。さらに検証が手軽にできることで問題の発見が前倒しされ、トータルの開発コストが大幅に削減されるという効果も見込まれる。

検証例1. 丸ボス高さ

検証例2. 上型U座形状

検証例3. 加工面間距離

社内ガイドラインの徹底による継続的な高品質モデル生成の実現

設計品質の検証工程の効率化にとどまらず、製造業者はDFM Studioの導入によって自社の貴重な資産とも言える独自の製造要件ガイドラインを現場で徹底することができる。

多くの製造業者は製造要件に関するノウハウをルール化しガイドラインとして社内共有している。しかし複雑で多岐にわたるルールをすべて設計モデルに反映させることは困難であり、しばしばガイドラインの形骸化が問題となる。

製造業者はCADモデルの品質検証工程をシステム化してガイドラインの実効性を高めることで、高品質なCADモデルが継続的に生成される仕組みを社内に構築することができる。

おわりに

当社は創業以来、主にマルチCAD環境での設計データの互換性を実現するさまざまなソリューションを提供することで、独自の3次元データ処理の技術を高めてきた。今回その基盤技術と経験を応用しものづくりの根幹とも言える製造分野に向けた新しいパッケージソフトウェアを開発した。本製品が製造プロセスのさらなる高度化に寄与し、ものづくりのさらなる発展に微力ながら貢献できれば幸いである。