本稿はエリジオンが雑誌『配管技術』(2017年1月号)に寄稿したInfiPointsに関する記事を転載したものです。

施工現場のデジタル化が進む背景

当社は2013年に点群処理ソフトウェアInfiPointsを発売して以来、プラント・製造業・土木・建築等さまざまな分野のお客さまとともに、施工現場のデジタル化による工事プロセスの効率化の取り組みを行っている。とりわけ、この数年で3Dレーザースキャナーや点群データの有用性が周知され始め、ただ現場をデジタル情報として見るだけではなく、エンジニアリングのプロフェッショナルによって実用的に使われるケースが加速度的に増加している。その背景には、日本経済の歴史や労働人口の変化など、マクロ的な観点での大きな流れが関係していると考えている。

日本の全国各地には、高度成長期に建てられた大規模な構造物が数多く存在している。建物や道路をはじめとしたそれらの構造物は、いずれも建設から50年近くが経過し、本格的なメンテナンスを必要とする時期を一斉に迎えている一方で、ベテラン技術者のリタイアや若年層の労働人口減少等の影響もあり、施工現場では人手不足が深刻化している。

こうした状況下で、業界各社はベテランからの技能伝承など若手技術者に対する教育を充実させることによって、工事の質と量の両方を維持するための新たな体制を模索しているが、その一方で、従来の工事・施工の手法を抜本的に見直し、改善の範疇を超えた革新的な工事プロセスを確立することも急務となっている。そこで先進企業が注目しているのが、3Dレーザースキャナーと点群データ処理ソフトを用いた現場のデジタル化なのである。

当初はデータ精度に対する懸念などもあり、ごく一部の企業がリニューアル工事における3Dレーザースキャナーと点群データを活用した施工準備改革に取り組んでいたが、スキャナーの低価格化と、当社のInfiPointsなど点群データ処理ソフトウェアの性能向上・機能拡充等が相まって、新しい工事プロセスを導入する企業が確実に増加している。

リニューアル案件へのBIMの適用

建築業界におけるIT活用という面においては、すでにBIM(Building Information Modeling)の概念が一般化し、施工準備で扱われるデータは従来の2次元から3次元に移り変わりつつある。特に新築工事においては、設計からメンテナンスまでの工事プロセス全体で3次元データを活用する方法が定着している。

業界として3次元データの活用範囲が広がり、工事プロセスの効率化が図られる中、すでに存在する建物や構造物の情報をいかに効率的にBIMに3次元データとして取り入れられるかという新たな課題が生まれている。これは、3次元データが存在しない場合はもとより、元々3次元CADで設計されている場合においても、施工時の現場調整によってデータと現物との間に差異が生じることが多いため、頻繁に発生する問題である。

3Dレーザースキャナーや点群処理ソフトを用いずに現場を3次元データにする場合、設計者はメジャーを持って現場を何度も訪れ、躯体・配管・設備を採寸する必要がある。それらをメモに残したり、現場の様子を手描きでスケッチしたり、写真を撮ったりして記録をするのが一般的であるが、例えば天井から垂れ下がった配線が見落とされたり、設備の細かな部分の採寸をし忘れたりした場合には、再度現場に赴く必要がある。こうした繰り返し作業は、対象の建物や構造物が大きくなればなるほど多く発生する。

現場のデジタル化に必要なツール

ここで、3Dレーザースキャナー、点群データ、点群処理ソフトという言葉に馴染みのない方にそれぞれの役割や特徴を簡単に紹介したい。

1.3Dレーザースキャナーと点群データ

3Dレーザースキャナーとは、本体からレーザー光を照射し、反射した光との差分を計測することで対象物との距離を求める機材である。従来の2次元の計測と異なり、一つ一つ3次元座標値(X,Y,Z)を持つ点の情報(点群)が得られ、正確に3次元形状を把握できる。1点ずつ計測するトータルステーションなどの測量機器と比べ、3Dレーザースキャナーは面的に大量の点群を取得できるため、PC上での現場の状況確認はもちろんのこと、施工シミュレーションやCADモデリングなど多様な用途で計測したデータを活用することが可能である。ただし、3次元データの活用には高度で複雑なデータ処理技術が必要であり、このことが、点群処理ソフトウェアに対し継続的に精度向上や機能拡張が求められる要因となっている。

3Dレーザースキャナーは、ハンディータイプから大型の据え置き型のものまで、用途に合わせた製品が各メーカーから提供されている。プラント等の大規模な構造物のデジタル化には、通常据え置き型のスキャナーが使用されている。

3Dレーザースキャナーの代表的なメーカーと製品

2.点群処理ソフトウェア

3Dレーザースキャナーで計測した点群データは、大規模な構造物では数億の点の集合体となり、ファイルサイズは数ギガバイトになる。このデータを通常使われているPCでストレスなく閲覧したり編集したりするためには、特殊なデータ処理技術が必要である。

当社は、30年来培ってきた3Dデータ処理技術を応用し、点群データの規模に依存せず大規模なファイルでもスムーズに扱える独自のテクノロジーを新たに開発してInfiPointsに搭載した。

またInfiPointsは、複数の点群データの自動合成、計測時に映り込んだノイズの自動除去、データの軽量化など、従来膨大な工数が必要であったデータの前処理を大幅に効率化・高品質化できる機能を有している。

計測時に映り込んだ人影の点群を除去した例

さらに、点群データから円柱や平面を自動で抽出して3D CADモデル化する機能も搭載している。このモデリング機能は、従来の手作業によるCADモデル作成の手間を大幅に軽減するもので、先に述べたリニューアル施工へのBIMの適用に欠かせない機能と言える。なお、InfiPointsには設備・配管・鋼材を点群データからCADモデル化するための機能はもとより、点群データと任意のCADモデルを同じ画面上に表示し、相互の干渉シミュレーションを行う機能や、人が現場を実際に動いているかのように視点を移動させた動画を作成する機能など、多様な機能がパッケージ化されている。

現場の様子をオフィスで確認するInfiPointsの使用イメージ

このように、現場を3次元でデジタル化する場合には、まずは3Dレーザースキャナーによる計測が必要である。またそれと併せて、スキャナーで計測した点群データを活用するための高精度かつ多機能なソフトウェアを使用することで、より効率的に、現場のデジタル化による新しい工事プロセスを確立することができる。

InfiPointsによる配管モデリングの特長

プラント等のリニューアル施工を行うユーザーからもっとも高い関心を集めている機能が、InfiPointsの配管モデリング機能である。点群データから円柱形状を自動抽出することで、短時間で配管のCADモデル化を実現する。円柱抽出においては、据え置き型の3Dレーザースキャナーによる計測では必ずレーザーが当たらない死角ができるため、通常は配管の円周の一部(120~180度程度)しか点群を取得できない。しかし、このような不完全な状態からでも、InfiPointsは点群の分布特徴から、単純な円柱形状である直管、さらに、より複雑なエルボー・フランジ・ティーなど配管の接合部の形状を自動認識する。

なお、点群が大きく欠けた部分や、断熱材などで標準的な形状から乖離が大きい箇所については手動でCADモデル化する必要があるが、InfiPointsではマウスのシンプルな操作だけで配管の3Dデータを完成させることができる。

さらに、任意の箇所を規格部品の形状データに置き換えることも可能である。

InfiPointsによる点群からの配管モデリングの例

今夏、当社はInfiPointsの新バージョン「InfiPoints Ver.3.0」をリリースした(*)。新バージョンでは、モデリングの対象としてレデューサーが追加されたほか、フランジを片面ずつ扱える機能を追加した。そのため、径が変化する配管や、フランジ合わせ部のすき間も忠実にモデリングでき、より実物に近い形状のモデルをInfiPoints上で作成することが可能となった。

(*) 追記: 2018年6月29日現在の最新バージョンはVer.4.1.2

外径の異なる配管をレデューサーでつないだ例

2枚をセットで作成したフランジ(上)と片面ずつフランジを作成した例(下)

鋼材も点群からCADモデルに

配管のCADモデル化機能のほかにも、点群データからの平面自動抽出機能を用いた設備のモデリングや、H形鋼などの鋼材のモデリングもInfiPoints上で行うことができる。

鋼材のモデリングを行う際には、点群データの形状から半自動的に鋼材のモデルが作られるが、その際、鋼材の一般的な規格サイズがInfiPointsの画面にガイドとして表示されるため、マウス操作で鋼材の端点をガイドに合わせたりするだけのシンプルな操作で適切な形状と大きさの鋼材を作成することが可能である。

点群からの鋼材モデリングのイメージ(左)。鋼材の断面を見ながら最適な規格サイズを選択する操作画面(右)

パラメーター出力によるモデリング業務の効率化

上述のとおり、点群データから配管や鋼材をモデル化したデータは、InfiPointsから出力することで各種CADソフトウェアなどに受け渡すことができる。その際、当社がこれまで主に製造業向けのソリューションとして提供してきたデータ変換技術(異なる3D CAD間でのデータ変換技術等)を応用することで、点群から作成したモデルの形状情報に加え「長さ」や「径」などのパラメーターの出力を実現している。

これにより、ユーザーはInfiPointsで作成したモデルのパラメーターを利用しながら、CADソフトウェア等で構造物をモデリングすることができる。点群処理ソフトウェアから形状だけ出力しCADで修正する場合には、一度モデルを削除し一から作成しなおす必要があるが、パラメーターを含んだデータ出力では、例えば配管や鋼材の長さや径を指定することで簡単かつ効率的に編集することができる。

なお、配管要素をモデリングする場合には、中心軸を3次元アイソメ図(dwg形式)として出力することもできる。dwgファイルの出力時には、InfiPointsで設定した配管径を属性やレイヤ情報として変換しており、アイソメ図データを受け渡した他のソフトウェア上で、すぐに「インテリジェント・モデル」(固定的な形状ではなく、径や長さを編集可能なモデル)として活用できるよう工夫している。

この自動ノイズ除去機能を活用することで、従来手作業で1週間ほどかかっていた作業が1晩で完了したユーザ事例もあった。

BIMソフトウェアとの親和性

InfiPointsでは、データ出力によるBIMソフトウェアとの親和性も重視している。

現在、多くの企業で、BIMソフトウェアが社内の標準インフラとして導入されている。そうした企業においては、点群処理ソフトでCADモデル化した配管や鋼材のデータをBIMに受け渡すことで、新築施工で行われているデータ活用プロセスを、リニューアル施工案件にも適用することが可能となる。

InfiPointsは、BIMの中間フォーマットとして一般的なデータ形式の一つであるIFCでのデータ出力に対応している。汎用性の高いIFCを出力することで、InfiPointsで作成したCADモデルをさまざまなBIMソフトウェアに受け渡すことができる。

そのほかにも、インターグラフ社のEYECADやNYKシステムズ社のRebroといった国内で普及している設備CADソフトウェアとの連携機能も搭載しており、後工程に最適なデータを出力する機能を有している。

InfiPointsとBIMソフト等との連携イメージ

点群の合成精度の重要性

冒頭で述べたとおり、さまざまな背景から点群データが急速に普及しており、その活用方法も成熟化しているが、それに伴って、点群データ活用の基本と言える、点群データの合成精度に対する要求水準も高まっている。

データ処理の特性上、合成には一定の誤差が必ず生じる。点群処理ソフトウェアはこの誤差を最小限に抑える技術が肝と言えるが、さらに、生じる誤差を正確にユーザーに提示し、関係者間で共有できるかたちでレポートする役割も担う必要がある。

InfiPointsは、複数点群データの相対的な位置を最適化するフィット機能の拡充や、点群データ内のマーカー認識精度の改良などを研究・開発することで、点群データの高い合成精度を実現した。

それに加え、合成後の各データの一致率を数値やグラフで正確に示したり、位置情報をレポートファイルとして出力したりする機能を有している。これにより、ユーザーは合成した点群データが実際の施工検討に必要な精度要求を満たしていることを確認した上で、詳細な設計を行うことができる。そのほか、3次元計測や工事施工を請け負ったユーザーが、納品データの精度を正確に施主に伝達する目的でも、InfiPointsで出力したレポートを利用することが可能である。

誤差のカラーマップ(中央)をはじめとした、InfiPointsでの視覚的・定量的な誤差表示の例

スキャナーのハンディー型と据え置き型の併用

InfiPointsは、主要な3Dレーザースキャナーの製造元とパートナーシップを組んでいる。プラント等での計測で主流となるのは据え置き型のスキャナーであるが、レーザーの死角となる部分を補足する目的で、近年ではハンディー型のスキャナーを使用するユーザーも増えている。

InfiPoints Ver.3.0では、米国DotProduct社が提供するハンディータイプの3DレーザースキャナーDPI-8で作成されたデータをInfiPointsに入力する機能を追加した。DPI-8で設備の裏側などを計測したり、現場の狭い範囲だけを計測したりした後、据え置き型のスキャナーで計測した大規模な点群データとInfiPoints上で合成することで、現場をより細部まで再現した点群データを作成することができる。

InfiPointsが、さまざまなスキャナーやデータ形式に対応した入力サイドの多様性と、BIMソフトウェアやCADソフトウェアに対応するデータを作成する出力サイドの多様性とを合わせ持つ点も、長年3Dデータ処理の技術を培ってきた当社ならではの特徴と言える。

ハンディースキャナーDPI-8のデータをInfiPointsに取り込むイメージ

おわりに

3Dレーザースキャナーの普及に伴って、建物や設備の施工準備における点群データの活用はさらに本格化することが見込まれる。その際、計測した点群データをいかに日々の業務で活用し、より高い工事品質と施工効率を実現するかが、点群処理ソフトウェアに課せられた課題と言える。

当社は、InfiPointsの点群データ合成精度を向上させ、その正確な精度を保証する機能を拡充したり、BIMで扱われる配管・鋼材等のモデルを効率的に作成する機能を強化したりすることで、点群データを単に見るものから、使うものへと昇華させることを目指している。

事実、InfiPointsのユーザーはいずれも実務に点群活用を導入し、工事プロセスのイノベーションを起こしている。その中には、現場調査から現況図作成にかかる時間を従来手法と比べ65%削減した例もある。

InfiPointsを導入したユーザーによる効率化の例

今後も、独自の計測実験やデータ処理技術に関する研究開発を継続的に実施し、リニューアル施工における点群データの有効活用による新たなエンジニアリングの発展に貢献していく所存である。