超精密切削加工技術の伝承―かたち×ノウハウでNCデータの自動生成を実現
株式会社青海製作所様
精密部品,自動車部品,金型
Geode SDK
精密部品,自動車部品,金型
Geode SDK
青海製作所は多品種・小ロットの超精密部品加工を強みとし、医療・自動車関連の部品製造を全国の企業から請け負っています。自社の特長をより強固なものにするため、経験が浅い社員でも一人で複合旋盤での製造が進められるよう、NCデータの自動生成システムを構築しました。
「当社が拠点を置く新潟は製造業が盛んな土地柄ではありません。物理的に近い場所で日頃から大手製造業のお客様とお付き合いをするようなことはできず、普通のことをやっているだけでは他社に勝ち目がありません。見積もり依頼をいただく機会すら得るのも難しいのが実情です。そのことには誰よりも危機感を持って、いかに他社との差別化を図るか考え続けています。いま力を入れているのは、微細加工や難削材加工など難しい案件を超短期間で対応する体制づくりです」(代表取締役 青海剛氏)
青海製作所では例えば金曜日に送られてきた数十種類の図面に対し、複数人の技術者がそれぞれの図面を担当することで、月曜日にすべて納品するといったことを想定した体制を整えていると言います。
「差別化を図るために加工設備や測定器も世界最高水準のものをそろえるようにしています。しかし、会社の技術力を左右するのはやはり『人』です。いかに人に集まってもらい、機械加工のセンスをはぐくみ、青海製作所でいい仕事をし続けてもらうかが重要な経営課題の一つと言えます」(青海氏)
「当社は多品種の部品製造を柔軟に行うために、基本的には一人の社員がCAD設計・工具選定・プログラミング・削り、そして検査まですべてをこなす多能工的な働き方を取り入れています。分業にしてしまうとプロセスのどこかがボトルネックになり、差別化につながる短納期を達成できないリスクが高まるためです。このことが大きな強みとなっている一方で、悩ましいのが『人によるばらつき』です」(青海氏)
「難しい案件を手早く高品質に仕上げられる社員は限られます。平準化を図りたいのですがどうしてもその人に負荷が偏ってしまう問題は常に抱えていました。また、経験が浅い社員からすれば難しい案件が任されないために成長の機会が少なく、結果として偏りがいつまでも解消されないという悪循環が起こります。社員には日ごろから『文書でもなんでもいいから、何かのかたちで自分の経験を残そう』と伝えてはいるのですが、忙しい社員ほどそれをする余裕がなく、知見が個人にだけ蓄積され、会社には何も残らない状態が続いていました。これをどうにかしなければいけないという気持ちがありました」(製造部部長 長谷川剛氏)
人による能力や品質のばらつきを解消するため、青海製作所は熟達者の知見の可視化や仕事の標準化、さらにAIなどを用いたシステム開発を行うLIGHTz社とともに複合自動旋盤のNCプログラミングの自動化に取り組みました。
「経済産業省の関東経済産業局の方を介して、AIなどを活用したシステム開発を行うLIGHTz社にデジタル化の相談をしました。難加工ができる社員の技術的センスを汎知化しほかの社員でもある程度加工が行える環境が整えば、経営課題である人によるばらつきを解決する糸口になると考えました」(青海氏)
LIGHTz社は約1年をかけて技術力の高い二人の社員を中心にインタビューを実施し、NCデータを自動生成するシステムの仕様をまとめていきました。
「インタビューされた社員も本来の仕事がある中で毎回大変だったと思います。それでも日頃はなかなか言語化できない知見を、外部の方に話す過程で自然と自分の中でも整理できたという点でよい機会になったと思います」(長谷川氏)
そして2024年3月、システムの第一弾が完成しました。
「現場の社員が使いやすい画面・インターフェースに仕上がったと思います。使い方としては、社員はまず自分が加工する部品の3D CADモデルと使用する加工マシンをiPad上で指定します。情報は社内のサーバーに送られそこでNCデータが自動で生成される仕組みです。非常にシンプルなつくりで、誰でも操作できるものができました」(長谷川氏)
サーバー側では、指定されたCADモデルに対してまずエリジオンの形状認識技術(Geode SDK)が作動し、CADモデルに含まれるボス、穴、面取りなどの特徴形状を抽出します。
続いてLIGHTz社が独自開発した技術により、社員へのインタビューをもとに汎知化された加工処理工程の中から最適なパターンが導き出されます。さらにその情報がCAMソフトウェアに入力され、複合旋盤を作動させるためのNCデータが自動生成されるまでの処理が一気通貫で行われます。
「作業者はiPadを操作したあと、サーバー側で自動生成されたNCデータを専用PC端末からコンパクトフラッシュに保存します。それを複合旋盤に差し込むことで、自らはプログラミングすることなく、機械を動かして加工をスタートさせられます」(長谷川氏)
このシステムにより、経験が浅い社員であっても基本的な加工ならすぐに一人で行えるといいます。
「誰でも仕事ができるようになるという直接的な生産効率のメリットだけでなく、ものづくりになじみのない若い人が『ゲーム感覚でできる』環境を整えることも、中長期的な視点で言えば大事なポイントなのかもしれません。地道な修行や苦労だけに目が向けられるのではなく、ハードルが低いところからまずはこの業界に入ってもらい、徐々にものづくりの奥深さに気づいてもらえたらよいのではないかと思います」(青海氏)
「日本全体で人手不足が懸念される中で、新潟・燕三条に拠点を置く当社にとっても新しい社員を採用したり、一度入社した社員に長く勤めてもらったりすることは重要な経営課題です。特に若い方の多くは製造業によいイメージを持っていないのではないでしょうか。当社では他社との差別化のためにも『絶対にできないと言わない。できるまで挑戦する!』を社訓として掲げ、社員とは『必要なら新しい設備をそろえ、できるためのやり方を考えよう』と常に話し合っています。仕事の面ではハードで高いレベルを期待しているからこそ、社員の要望を聞きながら社内にフィットネスジムやビリヤード、ダーツ、ゴルフ練習場、マッサージチェアなどをそろえ、リフレッシュしながら会社で充実した時間を過ごしてもらいたいと考えています」(青海氏)
「最近では若い女性が現場に配属されることも増えてきました。彼女たちもとてもやる気があり、いろいろなことに前向きに取り組もうという気概を感じます。今回開発したシステムが稼働することである程度難しいことも彼女らが一人でこなせるようになり、早い段階で『自分一人で完成させられた』という成功体験の機会を創出できるのではと期待しています。そのことがより難しい技術の習得へのモチベーションにつながり、その結果、中長期的に会社全体の技術力が底上げされていくと考えています」(長谷川氏)
エリジオンの形状処理技術を組み込んだシステム開発を