土木

橋梁寸法計測プロセスをデジタル化

三井住友建設株式会社

2018年8月、三井住友建設が橋梁の寸法計測に3D点群データを活用する新たな手法を発表しました。

従来は施工管理者がスケール(メジャー)を用いて現場に赴き、手作業で橋梁寸法の計測作業を行っていました。新手法は3Dレーザースキャナーで現場をデジタル化し、そのデータを元にPC上で採寸を行うというものです。

業界でも先駆的なこの取り組みは、国土交通省が公募した「建設現場の生産性を飛躍的に向上するための革新的技術の導入・活用に関するプロジェクト」にも選定されました。

3Dレーザースキャナーの3D点群データから自動抽出された橋梁断面形状

土木・建設現場のデジタル化が進む背景

土木・建設業界では、リアルな現場をデジタル化するというニーズが急速に高まっています。2020年の東京オリンピック・パラリンピックを一つの契機として業界全体が活況を呈しており、時を同じくして、高度成長期に建てられた社会インフラがいずれも建設から50年近くが経過し、一斉にメンテナンスを必要とする時期を迎えているということがその背景にあります。さらには、若年層の労働人口減少等による慢性的な人手不足やベテラン技術者のリタイアの影響もあり、従来の手法にとらわれない設計・施工・維持管理プロセスの効率化が求められるようになりました。

そうした中で注目を集めているのが、現場を精緻に再現できる3Dレーザースキャナーや点群データです。これらがリリースされた当時は計測したデータの精度に対する懸念があり、限られた企業が先行的に3Dレーザースキャナーや専用ソフトウェアを活用していましたが、スキャナーの低価格化と、InfiPointsのような点群データ処理ソフトウェアの性能向上・機能拡充が相まって、新しい工事プロセスを導入する企業が増加しています。

また導入にあたっては、ただ現場をデジタル情報としてPCで閲覧し現況を確認するだけでなく、エンジニアリングのプロフェッショナルが実用的にデータを使いこなすケースが増えています。

国土交通省が推進するi-Constructionも大きく影響しています。i-Constructionとは「過去30年間、建設工事工程の生産性改善は限定的であった」との認識のもとで社会インフラ整備における計画・測量から設計・施工、そして維持管理という一連の流れを3Dデータによって効率的に行うことを目指した取り組みです。このコンセプトが浸透するにつれ、建設業者だけでなく、測量サービス企業・測量機器メーカ・ソフトウェアベンダなどがそれぞれに新技術や新サービスを生み出し新たなソリューションを提供し始めています。

橋梁建設の現場が抱える課題

業界全体でのデジタルデータ活用の動きが活発化する中、橋梁建設を主要事業の一つに据える三井住友建設も独自のシステム開発・導入を積極的に図っています。国交省はi-Constructionを橋梁に展開したi-Bridgeの構想を掲げており、それに呼応するかたちで2017年12月には橋梁建設に関連する多くのデータを一元管理するトータルシステム「SMC-Bridge」を開発しました。

三井住友建設が手掛けるシステムSMC-Bridgeの全体像


そして翌年、SMC-Bridgeの機能拡張のために三井住友建設が着手したのが橋梁の出来形検測作業の効率化でした。

構造物の出来形検測作業では、2名1組がスケール(メジャー)を用いて手作業で記録するのが一般的です。また、エビデンスとして各寸法を写真に納め出来形検測調書を作成する作業があります。さらに合否判定のための検測では発注者機関の立ち会いも必要で、これら一連の作業が施工管理者にとって大きな負担となっていました。

これを解決する手段として高精度な計測が可能な3Dレーザースキャナー等のICT活用が検討され始めましたが、当初は膨大な量の点群データの処理方法や処理時間、データを取り扱う熟練技術者の確保などが壁となりました。

そこでInfiPointsの開発を通じて点群データ処理技術を蓄積したエリジオンが、三井住友建設のパートナーとしてこれらの課題を解消するシステムの開発を担うことになりました。


技術本部 構造技術部 土木構造技術グループ 高岡 怜氏

出来形検測システムの開発

まず三井住友建設によって全体コンセプトや実用性を考慮した具体的な仕様がまとめられ、それをもとにエリジオンが点群データを用いた新しい出来形検測の仕組みを構築しました。具体的な処理工程は以下の通りです。

  1. 3Dスキャナーで計測した複数の点群データをInfiPointsに取り込む
  2. 基準球を認識して点群データ同士を合成する
  3. 計測時に配置しておいたチェッカーボードターゲット(注)を点群データ内で認識し、検測したい断面の位置・方向を特定する
    (注)3Dレーザースキャナーでの計測時に予め現場に設置しておく目印。白黒の格子模様のため点群データ内で認識しやすく、データ合成や採寸を行う際の基準点として活用できる
  4. 点群データから検測したい断面の輪郭を抽出する
  5. 抽出した輪郭から部材の寸法値を算出する
  6. 寸法値を帳票(Excelデータ等)に出力する

一連の工程はすべて自動化されており、ユーザーは点群データを収めたファイルを規定のフォルダに配置し実行ボタンを押すだけで、検測結果を得ることができます。万が一、何らかのエラーが起きた場合にはインストールしたInfiPointsを起動し、対話的に確認・処理を進めながら検測することも可能です。

このシステムでは、計測時に配置したチェッカーボードターゲットを用いて検測したい断面を指定することで、構造物の輪郭を高精度で抽出することを実現することができます。自動検測された寸法精度は現場で人がスケール(メジャー)を用いた場合と同等レベルです。

実際の形状に採寸箇所などの指示が与えられたテンプレートをフィットさせるイメージ
(オリジナルデータ提供:三井住友建設)

これらのデータはすべて三井住友建設が運用するクラウド上で管理されます。発注者を含む関係者全員で情報が共有され、さらに施工管理の記録書類である出来形検測調書に出力することも可能です。これにより従来課題となっていた手間・時間の問題が解決されました。

三井住友建設は今後、検測された施工中の橋梁断面形状データを蓄積し、供用開始時の初期データとしてSMC-Bridge上で活用することで、将来の維持管理の効率化やライフサイクルコストの低減を図ることを視野に入れています。

出来形検測システムの導入効果

三井住友建設が実際の施工中の橋梁建設現場にこの仕組みを試適用したところ、構造物1断面当たりの施工管理者の建設現場における拘束時間は、およそ45分から20分へと短縮されました。一般に橋梁建設現場では複数の断面が存在するため、本システムにより生産性は約2倍に向上したことになり確実に成果が発揮されています。

時間軸での生産性向上のほかにも、現場をデジタル化することにより計測作業自体の品質向上など多くのメリットが生まれています。

計測作業の品質改善

  • 従来の計測手法に比べ人的ミスの発生リスクが下がる

作業レベルの平準化

  • 正確なデータを得るために実地での十分な経験が必要な従来の計測手法に比べ、一定のトレーニングを受ければ誰でもPC上で正確な計測ができる

客観的検証の実現

  • 施工後に検証が必要となった場合、従来は人が記録した計測値を信じるしかなかったが、点群データがエビデンスとなり事後にさまざまな観点で客観的な検証ができる

エンジニア教育の高度化

  • 過去の施工事例を立体的に見ることができ若手エンジニアがPC上で多くの知見を短期間で得られる

新たな気づきの誘発

  • 平面の図面ではなく3次元のリアルな情報を元に現物を観察することで従来とは異なる視点から生産性や安全性向上につながる気づきが得られる

三井住友建設は、今回の検測システムを建設中の橋梁構造物に限定することなく、図面が保存されていない既存構造物の図面作成ツールやコンクリート工場製品等へも適用し、3Dデータを用いた効率化に関して幅広い展開を図るとしています。

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