土木

道路の維持管理業務を点群データ活用で効率化 — 新システム「InfraDoctor」を共同開発

首都高技術株式会社

首都高技術は、道路や構造物の維持管理、改築・更新事業に関わる業務を効率化するため、エリジオンと朝日航洋株式会社とともに、地理情報と3次元点群データを活用した新システムInfraDoctor(インフラドクター)を開発しました。

背景・市場環境

国内には高度成長期に建設された道路などのインフラが数多く存在し、高齢化した構造物が全体に占める割合は急速に増加しています。それに伴って、構造物の維持管理や改築・更新といった業務が増大することが予測される一方で、少子高齢化による技術者不足が課題となっています。

首都高の道路・構造物の点検や補修・補強設計等、維持管理に関する業務を行っている首都高技術にとっても、限られたリソースと時間の中で、いかに効率的に、全長300キロメートルを超える道路とその周辺構造物の安全を確保していくかが、経営課題の一つとなっていました。

3社のコンソーシアムによる独自システム開発へ

首都高技術には、長年培った道路・構造物の維持管理に関するノウハウとデータが蓄積されています。それらの資産を最大限活用し、業務の効率化を実現するためには、蓄えられた膨大なデータの正確な管理と、技術者が担っている補修補強設計、作業計画、関係者協議等の各種業務を支援・合理化するシステムの開発が不可欠でした。

そこで首都高技術は、3次元形状処理とデータ交換の分野において専門的な技術を有するエリジオンと、GIS(地理情報システム)技術や自社所有のMMS(移動計測車両による測量システム)を用いた道路情報の取得・解析技術に長けた朝日航洋とともに、独自のシステムを開発するコンソーシアムを立ち上げました。

道路・構造物維持管理業務支援システムInfraDoctor

各分野での専門的な知識と技術を持ち寄ることで、コンソーシアム発足から短期間のうちに、まったく新しい道路・構造物維持管理業務支援システムInfraDoctorが完成しました。

InfraDoctorは、GIS(地理情報システム)とMMS(移動計測車両による測量システム)で計測した3次元点群データや全方位動画などを連携させ、道路・構造物の状況を画面上で確認したり、点群データから必要な図面を自動作成したりすることで、道路・構造物の維持管理業務をトータルサポートするシステムです。また、図面や点検データ等、各種台帳の管理・検索機能も備えています。

エリジオンは、InfiPointsに搭載された3次元点群データの処理技術を応用し、InfraDoctorにおける道路の寸法計測機能、各種シミュレーション機能、図面作成機能の開発を行いました。

InfraDoctorでの3次元点群データ活用機能

3次元寸法計測

道路や構造物の維持管理業務では、周辺の建物や架線なども含めたさまざまな箇所の距離を把握することが重要です。現状では、2次元の竣工図をもとに距離を測ったり、場合によっては現場で測量したりするのが基本的な方法です。

InfraDoctorでは、計測した3次元点群データをもとに、任意の箇所の寸法を画面上で計測することができます。交通量が多い場所や現地計測が難しい高い場所、複雑に足場を組む必要がある場所などでも、簡単に寸法を計測することが可能です。

InfraDoctorが提供するGISプラットフォーム上での寸法計測

点検車シミュレーション

橋梁点検車や高所作業車などでの構造物点検では、現状、竣工図や写真を用いて事前検討するのが一般的です。InfraDoctorを用いれば、GISで取得した地理情報と3次元点群データ、さらに重機のCADデータを融合し、重機と構造物が干渉しないかを画面上でシミュレーションすることができます。どの重機がその現場に適切であるかを事前に判断することができるため、例えば一度重機を現場に運んだにも関わらず適切な作業が行えないといった手戻りを防ぐことが可能になります。また現場での作業手順を関係者間であらかじめ確認することで、作業効率の向上を図ることもできます。

道路の点群データと点検車のCADモデルを用いた点検シミュレーション

CAD図面作成

道路のCADデータを作成する場合、通常は平面図や測量結果からオペレータが一つ一つモデリングするため、膨大な手間がかかります。また古い道路や構造物の図面は残されていないこともあり、そもそもCADデータ化することが不可能なケースもあります。

InfraDoctorには、エリジオンが開発した点群データからCADデータへの変換機能が搭載され、CAD図面作成における大幅な作業時間の短縮を可能にしました。

高架下の点群データ(左)とそれをもとに作成した図面(右)。道路だけでなく鉄道や電線など管理者が異なる構造物の位置情報も正確に反映

道路の点群データ(左)とそれをもとに作成した解析用モデル(右)。図面が存在しない道路や構造物のデータ化を実現

保安規制図作成

道路上で作業を行う際には、どの車線を規制するか、どこを通行止めにするかといった内容を示す図面を事前に作成する必要があります。InfraDoctorでは、エリジオンが新たに開発したデータ処理技術を用いることで、地理情報と点群データから規制図を素早く簡単に作成することが可能となりました。また、規制した道路の状況を画面上に3次元で表現することができ、担当者だけでなく関係者全員が事前に規制内容を確認することも可能です。

作業車のCADモデルを配置した点群データ(左)と、それを俯瞰し寸法や注記を追記して作成した規制図(右)

新規事業として海外展開も視野に

首都高技術は、InfraDoctorを用いた点検等、維持管理業務を実際に現場で検証した後、2015年度中に本格運用することを目指しています。またその後は、首都高技術のコンサルティング部門が、国や他団体の点検業務のサポートをする際にも、InfraDoctorを活用していく予定です。

さらに、経済発展が続くアジア諸国を中心にインフラの整備が急速に進んでおり、海外でも構造物の的確な維持管理業務を支援するシステムが求められています。そうしたニーズの高まりを視野に入れ、InfraDoctorを用いた海外企業へのソリューション提供という新たな事業構想につながるものと考えています。

総務大臣賞を授賞

3社によるInfraDoctor開発の取り組みは、2017年、第1回インフラメンテナンス大賞における「情報通信技術の優れた活用に関する総務大臣賞」を受賞しました。インフラメンテナンス大賞は、国土交通省・総務省・文部科学省・厚生労働省・農林水産省・防衛省が共同で主催し、インフラメンテナンスに関する優れた取り組みを表彰する目的で創設されたものです。

InfraDoctorは248件の応募案件の中から、栄えある第1回受賞案件に選ばれました。

2017年7月24日に開かれた授賞式の様子(左)と賞状(右)

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